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 『夜叉ヶ池』 青空文庫

鯰入 笑われますか、情《なさけ》ない。生命《いのち》とまでは無うても、鰭、尾を放て、髯《ひげ》を抜け、とほどには、おふみに遊ばされたに相違はござるまい。……これは一期《いちご》じゃ、何としょう。(と寂しく泣く。)
鯉、蟹、これを見て囁《ささや》き、頷《うなず》く。
鯉七 いや、御坊、無い事とも言われませぬ。昔も近江街道を通る馬士《まご》が、橋の上に立った見も知らぬ婦《おんな》から、十里前《さき》の一里塚の松の下の婦《おんな》へ、と手紙を一通ことづかりし事あり。途中気懸りになって、密《そっ》とその封じ目を切って見たれば、==妹御へ、一《ひとつ》、この馬士の腸《はらわた》一組参らせ候《そろ》==としたためられた――何も知らずに渡そうものなら、腹を割《さ》かるる処であったの。

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