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 『眉かくしの霊』 泉鏡花を読む

「次手にお銚子を。火がいゝから傍へ置くだけでも冷めはしない。……通いが遠くつて気の毒だ。三本ばかり一時に持つておいで。……何うだい。岩見重太郎が註文するやうだらう。」
「おほゝ。」
 今朝、松本で、顔を洗つた水瓶の水とともに、胸が氷に鎖されたから、何の考へもつかなかつた、こゝで暖かに心が解けると、……分かつた、饂飩で虐待した理由と言ふのが――紹介状をつけた画伯は、近頃でこそ一家をなしたが、若くて放浪した時代に信州路を経歴つて、その旅館には五月あまりも閉篭もつた、滞る旅篭代の催促もせず、帰途には草鞋銭まで心着けた深切な家だと言つた。が、あゝ、其だ。……おなじ人の紹介だから旅篭代を滞らして、草鞋銭を貰ふのだと思つたに違ひない……

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