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 『春昼』 泉鏡花を読む

 実はあの方を、東京の方がなさる別荘を真似て造つたでありますが、主人が交際ずきで頻と客をしまする処、いづれ海が、何よりの呼物でありますに。此の久能谷の方は、些と足場が遠くなりますから、すべて、見得装飾を向うへ持つて参つて、小松橋が本宅のやうになつて居ります。
 其処で、去年の夏頃は、御新姐、申すまでもない、そちらに居たでございます。 で其の――小松橋を渡ると、急に遠目金を覗くやうな円い海の硝子へ――ぱつと一杯に映つて、とき色の服の姿が浪の青いのと、巓の白い中へ、薄い虹がかゝつたやうに、美しく靡いて来たのがある。……

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