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 『婦系図』 青空文庫

 我は不義者の児なりと知り、父はしかも危篤の病者。逢うが別れの今世《こんじょう》に、臨終《いまわ》のなごりを惜《おし》むため、華燭《かしょく》銀燈輝いて、見返る空に月のごとき、若竹座を忍んで出た、慈善市《バザア》の光を思うにつけても、横町の後暗さは冥土《よみじ》にも増《まさ》るのみか。裾端折り、頬被《ほほかぶり》して、男――とあられもない姿。ちらりとでも、人目に触れて、貴女は、と一言聞くが最後よ、活きてはいられない大事の瀬戸。辛《から》く乗切って行く先は……実《まこと》の親の死目である。道子が心はどんなであろう。
 大巌山の幻が、闇《やみ》の気勢《けはい》に目を圧えて、用の音凄《すさま》じく、地を揺《ゆ》るごとく聞えた時、道子は俤さえ、衣《きぬ》の色さえ、有るか無きかの声して、

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