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 『婦系図』 青空文庫

 大巌山の幻が、闇《やみ》の気勢《けはい》に目を圧えて、用水の音凄《すさま》じく、地を揺《ゆ》るごとく聞えた時、道子は俤さえ、衣《きぬ》の色さえ、有るか無きかの声して、
「夢ではないのでしょうかしら。宙を歩行《ある》きますようで、ふらふらして、倒れそうでなりません。早瀬さん、お袖につかまらして下さいまし。」
「しっかりと! 可い塩梅に人通りもありませんから。」

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