検索結果詳細


 『婦系図』 青空文庫

「大変だ、帯に、」と一声。余りの事に茫《ぼう》となって、その時座を避けようとする、道子の帯の結目《むすびめ》を、引断《ひっき》れよ、と引いたので、横ざまに倒れた裳《もすそ》の煽《あお》り、乳のあたりから波打って、炎に燃えつと見えたのは、膚《はだえ》の雪にる火をわずかに襦袢に隔てたのであった。トタンに早瀬は、身を投げて油の上をぐるぐると転げた。火はこれがために消えて、しばらくは黒白《あやめ》も分かず。阿部街道を戻り馬が、遥に、ヒイインと嘶《いなな》く声。戸外《おもて》で、犬の吠ゆる声。

 3520/3954 3521/3954 3522/3954


  [Index]