検索結果詳細


 『婦系図』 青空文庫

 例に因って、室々へ、雪洞が入り、衣が出で、夫人が後姿になり、看護婦が前に向き、ばたばたばた、ばたばたと規律正しい沈んだ音が長廊下に断えては続き、処々月になり、また雪洞がぽっと明《あか》くなって、ややあって、遥かに暗い裏階子《うらばしご》へ消える筈のが、今夜は廊下の真中《まんなか》を、ト一列になって、水彩色《みずさいしき》の燈籠の絵の浮いて出たように、すらすらこなたへ引返《ひっかえ》して来て、中程よりもうちっと表階子へ寄った――右隣が空いた、富士へ向いた病室の前へ来ると、夫人は立留って、衣は左右に分れた。

 3536/3954 3537/3954 3538/3954


  [Index]