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 『天守物語』 泉鏡花を読む

夫人 ほゝゝ、播磨守の家中とは違ひます。こゝは私の心一つ、掟なぞは何にもない。
図書 それを、お呼留め遊ばしたは。
夫人 おはなむけがあるのでござんす。――人間は疑《うたがひ》深い。卑怯な、臆病な、我儘《わがまゝ》な、殿様などは尚の事。貴方が此の五重へ上つて、此の私を認めたことを誰も真個《ほんたう》にはせぬであらう。清い、爽かな貴方のために、記念《しるし》の品をあげませう。(静《しづか》に以前の兜を取る)――これを、其の記念《しるし》にお持ちなさいまし。

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