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 『婦系図』 青空文庫

「へへい、」と頓興な、ぼやけた声を出して、め組が継《つぎ》の当った千草色の半股引《はんももひき》で、縁側を膝立って来た――婦《おんな》たちは皆我を忘れて六畳に――中には抱合って泣いているのもあるので、惣助一人三畳の火鉢の傍《わき》に、割膝で畏《かしこま》って、歯を喰切《くいしば》った獅噛面《しがみづら》は、額に蝋燭《ろうそく》の流れぬばかり、絵にある燈台鬼という顔色。時々病人の部屋が寂《しん》とするごとに、隣の女連の中へ、四ツ這《ばい》に顔を出して、
んだか、)と聞いて、女房のお増に流眄《しりめ》にかけられ、
(まだか、)と問うて、また睨《ね》めつけられ、苦笑いをしては引込《ひっこ》んで控えたのが――大先生の前なり、やがて仏になる人の枕許、謹しんで這って出て、ひょいと立上って蛍籠を外すと、居すくまった腰が据《すわ》らず、ひょろり、で、ドンと縁へ尻餅。魂が砕けたように、胸へ乱れて、颯と光った、籠の蛍に、ハット思う処を、

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