検索結果詳細


 『婦系図』 青空文庫

 厠は表階子《おもてばしご》の取附《とッつ》きにもあって、そこは燈《あかり》も明《あかる》いが、風は佳し、廊下は冷たし、歩行《ある》くのも物珍らしいので、早瀬はわざと、遠い方の、裏階子の横手の薄暗い中へ入った。
 ざぶりを注《か》けながら、見るともなしに、小窓の格子から田圃を見ると、月は屋の棟に上ったろう、影は見えぬが青田の白さ。
 風がそよそよと渡ると見れば、波のように葉末が分れて、田の水の透いたでもなく、ちらちらと光ったものがある。緩い、遅い、稲妻のように流れて、靄のかかった中に、土のひだが数えられる、大巌山の根を低く繞《めぐ》って消えたのは、どこかの電燈が閃いて映ったようでもあるし、蛍が飛んだようにも思われる。

 3678/3954 3679/3954 3680/3954


  [Index]