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『婦系図』 青空文庫
ざぶり水を注《か》けながら、見るともなしに、小窓の格子から田圃を見ると、月は屋の棟に上ったろう、影は見えぬが青田の白さ。
風がそよそよと渡ると見れば、波のように葉末が分れて、田の水の透いたでもなく、ちらちらと光ったものがある。緩い、遅い、稲妻のように流れて、靄のかかった中に、土のひだが数えられる、大巌山の根を低く繞《めぐ》って消えたのは、どこかの電燈が閃いて映ったようでもあるし、蛍が飛んだようにも思われる。
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