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 『婦系図』 青空文庫

 と、投げる様に言棄てたが、恐気《おそれげ》も無く、一分時の前は炎のごとく真紅《まっか》に狂ったのが、早や紫色に変って、床に氷ついて、飜《ひるがえ》った腹の青い守宮《やもり》を摘《つま》んで、ぶらりと提げて、鼻紙を取って、薬瓶と一所に、八重にくるくると巻いて包んで、枕許のその置戸棚の奥へ、着換の中へ突込んで、ついでにまだ、何かそこらを探したのは、落ちた蛾を拾おうとするらしかったが、それは影も無い。
 なお棚には、他に二つばかり処方の違った、今は用いぬ、同一《おなじ》薬瓶があった。その一個《ひとつ》を取って、ハタと叩きつけると、床に粉々になるのを見向きもしないで、躍上るように勢込んで寝台に上って、むずと高胡坐《たかあぐら》を組んだと思うと、廊下の方を屹と見て、

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