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 『五大力』 従吾所好

「其の以前……弗〈ふツ〉つり行かなく成つてから、半年あまり立つて、よそごころに茶屋まで行つて。其の喜の字の婆さんから――其の女は最う廓に居ない。出たのでも落籍〈ひか〉されたのでもない、病気のために、内証で証文を捲いた次第で、養生とも寮とも言はず、親方が年季を投出すくらゐだから、大抵容体は察しても知れます――と話をされた事がある。
 肺病かと聞くと、いや、不思議な病気、身体が糸のやうに痩せて、額が抜上つて、頬がげつそり。そして、希有な事には、両方の目の球が、ぷく/\と膨れて、まつげぐるみ、瞼がく翻〈かへ〉つて、ぶらりと出る。……胸も腹も動悸はたゞ波を打つばかり、で、わな/\わな/\十本の指がひとりでに震へる。」

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