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 『春昼』 泉鏡花を読む

 絽でせう、空色と白とを打合はせの、模様は一寸分らなかつたが、お太鼓に結んだ、白い方が、腰帯に当つて水無月の雪を抱いたやうで、見る目に、ぞツとして擦れ違ふ時、其の人は、忘れた形に手を垂れた、其の両手は力なささうだつたが、幽にぶる/\と肩が揺れたやうでした、傍を通つた男の気に襲はれたものでせう。
 通り縋ると、どうしたのか、我を忘れたやうに、私は、あの、低い欄干へ、腰をかけて了つたんです。抜けたのだなぞと言つては不可ません。下は川ですから、あれだけの流でも、落ちようもんなら其切です――淵や瀬でないだけに、救助船とも喚かれず、又叫んだ処で、人は串戯だと思つて、笑つて見殺しにするでせう、泳を知らないから、)

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