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 『婦系図』 青空文庫

 日盛りの田畝道《たんぼみち》には、草の影も無く、人も見えぬ。村々では、朝から蔀を下ろして、羽目を塞いだのさえ少くない。田舎は律義で、日蝕は日の煩いとて、その影には毒あり、光には魔あり、熱には病《やまい》ありと言伝える。さらぬだにその年は九分九厘、ほとんど皆既蝕と云うのであった。
 早朝《あさまだき》日の出の色の、どんよりとしていたのが、そのまま冴えもせず、曇りもせず。鶏卵《たまご》色に濁りを帯びて、果し無き蒼空にただ一つ。別に他に輝ける日輪があって、あたかもその雛形のごとく、灰色の野山の天に、寂寞として見えた――

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