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 『婦系図』 青空文庫

 これより前《さき》、相貌堂々として、何等か銅像の揺《ゆる》ぐがごとく、頤に髯長き一個の紳士の、握《にぎり》に銀《しろがね》の色の燦爛たる、太く逞《たくまし》き杖《ステッキ》を支いて、ナポレオン帽子の庇《ひさし》深く、額に暗き皺を刻み、満面に燃《もゆ》るがごとき怒気を含んで、頂の方を仰ぎながら、靴音を沈めて、石段を攀じて、松の梢に隠れたのがあった。

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