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 『薬草取』 青空文庫

「ございませんとも、この路筋《みちすじ》さえ御存じで在《い》らっしゃれば、世を離れました寂しさばかりで、獣《けだもの》も可恐《おそろしい》のはおりませんが、一足でも間違えて御覧なさいまし、何千丈《じょう》とも知れぬ谷で、行留《ゆきどま》りになりますやら、断崖《きりぎし》に突当《つきあた》りますやら、流《ながれ》に岩が飛びましたり、大木の倒れたので行《ゆ》く前《さき》が塞《ふさが》ったり、その間には草樹《くさき》の多いほど、毒虫もむらむらして、どんなに難儀でございましょう。
 旧《もと》へ帰るか、倶利伽羅峠《くりからとうげ》へ出抜《でぬ》けますれば、無事に何方《どちら》か国へ帰られます。それでなくって、無理に先へ参りますと、終局《しまい》には草一条《くさひとすじ》も生えません焼山《やけやま》になって、餓《うえじに》をするそうでございます。

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