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『婦系図』 青空文庫
「迷惑や気の毒を勘酌して巾着切が出来るものか。真人間でない者に、お前《めえ》、道理を説いたって、義理を言って聞かしたって、巡査《おまわり》ほどにも恐くはねえから、言句《もんく》なしに往生するさ。軍《いくさ》に負けた、と思えば可《よ》かろう。
掏摸の指で突《つつ》いても、倒れるような石垣や、蟻で崩れる濛《ほり》を穿《ほ》って、河野の旗を立てていたって、はじまらねえ話じゃねえか。
お前さん、さぞ口惜《くやし》かろう。打《ぶ》ちたくば打て、殺したくば殺しねえ、義理を知って死ぬような道理を知った己じゃねえが、嬢さんに上げた生命《いのち》だから、その生命を棄てるので、お道さんや、お菅さんにも、言訳をするつもりだ。死んでも寂《さびし》い事はねえ、女房が先へ行って待っていら。
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