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 『天守物語』 泉鏡花を読む

薄 えゝ、もう可《い》いではございません。図書様を賊だ、と言ひます。御秘蔵の兜を盗んだ謀逆人《むほんにん》、謀逆人、殿様のお首に手を掛けたも同然な逆賊でございますとさ。お庇《かげ》で兜が戻つたのに。――何てまあ、人間と云ふものは。――あれ、捕手《とりて》が掛つた。忠義と知行で、てむかひはなさらぬか知ら。しめた、投げた、嬉しい。其処だ。御家老が肩衣《かたぎぬ》を撥《はね》ましたよ。大勢が抜連《ぬきつ》れた。あれ危い。豪《えら》い。図書様抜合せた。……一人腕が落ちた。あら、胴切。また何も働かずとも可《い》いことを、五両二人扶持《ににんぶち》らしいのが、あら、可哀相に、首が飛びます。

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