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 『絵本の春』 青空文庫

 弥生《やよい》の末から、ちっとずつの遅速はあっても、花は一時《いっとき》に咲くので、その一ならびの塀の内に、桃、梅、椿《つばき》も桜も、あるいは満開に、あるいは初々しい花に、色香を装っている。石垣の草には、蕗《ふき》の薹《とう》も萌《も》えていよう。特に桃の花を真先《まっさき》に挙げたのは、むかしこの一廓は桃の組といった組屋敷だった、と聞くからである。その樹の名木も、まだそっちこちに残っていて麗《うららか》に咲いたのが……こう目に見えるようで、それがまたいかにも寂しい。

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