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 『歌行燈』 従吾所好

「今から丁ど三年前。……其の年は、此の月から一月後〈おくれ〉の師走の末に、名古屋へ用があつて来た。序と言つては悪いけれど、稼の繰廻しが何うにか附いて、参宮が出来ると言ふのも、お伊勢様の思召、冥加のほど難有い。ゆつくり古市に逗留して、其れこそ次手に、……浅熊山の雲も見よう、鼓ヶ岳の調も聞かう。二見ぢや初日を拝んで、堺橋から、池の浦、沖の島で空が別れる、上郡から志摩へ入つて日和山を見物する。……が凪いだら船を出して、伊良子ヶ崎の鼠で飲もう、何でも五日六日は逗留と云ふつもりで。……山田では尾上町の藤屋へ泊つた。驚くべからず――まさか其の時は私だつて、浴衣に袷ぢや居やしない。

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