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『雛がたり』 青空文庫
ふとその飾った形も姿も、昔の故郷の雛によく肖《に》た、と思うと、どの顔も、それよりは蒼白くて、衣《きぬ》も冠《かむり》も古雛《ふるびな》の、丈が二倍ほど大きかった。
薄暗い白昼《まひる》の影が一つ一つに皆映る。
背後《うしろ》の古襖《ふるぶすま》が半ば開いて、奥にも一つ見える小座敷に、また五壇の雛がある。不思議や、蒔絵《まきえ》の車、雛たちも、それこそ寸分違《たが》わない古郷《ふるさと》のそれに似た、と思わず伸上《のびあが》りながら、ふと心づくと、前の雛壇におわするのが、いずれも尋常《ただ》の形でない。雛は両方さしむかい、官女たちは、横顔やら、俯向いたの。お囃子《はやし》はぐるり、と寄って、鼓の調糸《しらべ》を緊めたり、解いたり、御殿火鉢《ごてんひばち》も楽屋の光景《ありさま》。
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