検索結果詳細


 『歌行燈』 従吾所好

「ね、古市へ行くと、まだ宵だのに寂然〈ひつそり〉して居る。……軒が、がたぴしと鳴つて、軒行燈がばツばツ揺れる。三味線の音もしたけれど、吹さらはれて大屋根の猫の姿でけし飛ぶやうさ。何の事はない、今夜の此の寂しい新地へ、風を持つて来て、打着けたと思へば可い。
 一軒、地の些と窪んだ処に、溝板〈どぶいた〉から直ぐに竹の欄干に成つて、毛氈の端は刎上り、畳にい縞が出来て、洋燈〈ランプ〉は油煙に燻つたが、真白に塗つた姉さんが一人居る、空気銃、吹矢の店へ、ひよろりとして引掛つたね。

 433/744 434/744 435/744


  [Index]