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『歌行燈』
従吾所好
門附に成る前兆さ、状〈ざま〉を見やがれ。」と片手を袖へ、二の腕深く突込んだ。片手で狙ふやうに茶碗を圧へて、
「ね、古市へ行くと、まだ宵だのに寂然〈ひつそり〉して居る。……軒が、がたぴしと鳴つて、軒行燈がばツばツ揺れる。三味線の音もしたけれど、吹さらはれて大屋根の猫の姿でけし飛ぶやうさ。何の事はない、今夜の此の寂しい新地へ、風を持つて来て、打着けたと思へば可い。
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