検索結果詳細


 『五大力』 従吾所好

 でね、風呂敷を取らうとすると、一向他愛なく翻然〈ひらり〉と空だよ。驚いたの何の……何うです、兵子帯が解けて下つたやうに、大事な御本尊の影も形も無からうぢやないか。
 アツと云つて、声を出して嘘では無い、二三度ぐる/\と廻つた。薄明るいのは水ばかり、道も自分も真暗です。
 さあ、いまの婦に奪られたか、と思ふと……又ね、其の水の上へ、一面に雨上りの霧がかゝつて、向う土手を所々小さな浮島に見せて、空まで果しがないやうな。何処か、其の川の真中あたりを、白いものがむく/\と持上げられて、其のまはりへ、薄赤い〓〈しぶき〉がかゝる風に、岸の火影がさら/\と靄越しに映りながら、ふら/\と流れて行く。……

 437/1139 438/1139 439/1139


  [Index]