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 『義血侠血』 青空文庫

 七、八町を競争して、幸いに別条なく、馬車は辛くも人力車を追い抽きぬ。乗り合いは思わず手を拍ちて、車も憾《うご》くばかりに喝采せり。奴は凱歌《かちどき》の喇叭を吹き鳴らして、後《おく》れたる人力車を麾《さしまね》きつつ、踏み段の上に躍れり。ひとり御者のみは喜ぶ気色もなく、意《こころ》を注ぎて馬を労《いたわ》り駈けさせたり。
 怪しき人は満面に笑みを含みて、起伏常ならざる席に安んずるを、隣なる老人は感に堪えて、
「おまえさんどうもお強い。よく血の道が発《おこ》りませんね。平気なものだ、女丈夫《おとこまさり》だ。私なんぞはからきし意気地はない。それもそのはずかい、もう五十八だもの」

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