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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 と宰八は一寸立留まる。前途《ゆくて》に黒門の森を見てあれば、秋谷の夜は此処よりぞ暗くなる、と前途《ゆくて》に近く、人の足許が朦朧と、早やその影が押寄せて、土手の低い草の上へ、襲いかかる風情だから、一人が留まれば皆留まった。
 宰八の背後《あと》から、もう一人。杖《ステッキ》を突いて続いた紳士は、村の学校の訓導である。
 「見馴れねえ旅の書生さんじゃ、下ろした荷物に、寝《そ》べりかかって、腕を曲げての、足をお前《めえ》、草の上へ横投げに投出して、ソレ其処《そこい》ら、白鷺の鶏冠のように、川面へほんのり白く、すいすいと出て咲いていら、昼間見ると桃色の優しい花だ、はて、蓬でなしよ。」

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