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 『人魚の祠』 青空文庫

 一体、水と云ふものは、一雫《ひとしづく》の中にも河童が一個《ひとつ》居て住むと云ふ国が有りますくらゐ、気心の知れないものです。分けて底澄んで少し白味を帯びて、とろ/\と然《しか》も岸とすれ/″\に満々と湛《たゝ》へた古沼ですもの。丁《ちやう》ど、其の日の空模様、雲と同一《おなじ》に淀《どんよ》りとして、雲の動く方へ、一所《いつしよ》に動いて、時々、てら/\と天に薄日が映《さ》すと、其の光を受けて、晃々《きら/\》と光るのが、沼の面《おもて》に眼《まなこ》があつて、薄目に白く人を窺ふやうでした。
 此では、其の沼が、何だか不気味なやうですが、何、一寸の間の事で、――四時下り、五時前と云ふ時刻――暑い日で、大層疲れて、汀にぐつたりと成つて一息吐《つ》いて居る中には、雲が、なだらかに流れて、薄いけれども平《たひら》に日を包むと、沼のは静《しづか》に成つて、そして、少し薄暗い影が渡りました。

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