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 『人魚の祠』 青空文庫

 此では、其の沼が、何だか不気味なやうですが、何、一寸の間の事で、――四時下り、五時前と云ふ時刻――暑い日で、大層疲れて、汀にぐつたりと成つて一息吐《つ》いて居る中には、雲が、なだらかに流れて、薄いけれども平《たひら》に日を包むと、沼の水は静《しづか》に成つて、そして、少し薄暗い影が渡りました。
 風はそよりともない。が、濡れない袖も何となく冷いのです。
 風情は一段で、汀には、所々、丈の低い燕子花《かきつばた》の、紫の花に交《まじ》つて、あち此方《こち》に又一輪づゝ、言交《いひか》はしたやうに、白い花が交《まじ》つて咲く……

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