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 『国貞えがく』 青空文庫

 まだ、その蜘蛛大名の一座に、胴の太い、脚の短い、芋虫が髪を結って、緋の腰布を捲いたような侏儒《いっすんぼし》の婦《おんな》が、三人ばかりいた。それが、見世ものの踊《おどり》を済まして、寝しなに町の湯へ入る時は、風呂の縁へ両手を掛けて、横に両脚でドブンと浸る。そして湯の中でぶくぶくと泳ぐと聞いた。
 そう言えば湯屋はまだある。けれども、以前見覚えた、両眼真黄色な絵具の光る、巨大な蜈〓《むかで》が、黒い雲の如く渦を巻いた真中に、俵藤太が、弓矢を挟んで身構えた暖簾が、ただ、男、女と上へ割って、柳湯、と白抜きのに懸替って、門《かど》の目印の柳と共に、枝垂《しだ》れたようになって、折から森閑と風もない。

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