検索結果詳細


 『国貞えがく』 青空文庫

 そう言えば湯屋はまだある。けれども、以前見覚えた、両眼真黄色な絵具の光る、巨大な蜈〓《むかで》が、赤黒い雲の如く渦を巻いた真中に、俵藤太が、弓矢を挟んで身構えた暖簾が、ただ、男、女と上へ割って、柳湯、と白抜きのに懸替って、門《かど》の目印の柳と共に、枝垂《しだ》れたようになって、折から森閑と風もない。
 人通りも殆ど途絶えた。
 が、何処ともなく、柳に暗い、湯屋の硝子戸の奥深く、ドブンドブンと、ふと湯の煽ったような響が聞える。……

 47/317 48/317 49/317


  [Index]