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 『春昼』 泉鏡花を読む

 唯それだけを見て過ぎた。女今川の口絵でなければ、近頃は余り見掛けない。可懐しい姿、些と立佇つてといふ気もしたけれども、小児でも居ればだに、どの家も皆野面へ出たか、人気は此の外になかつたから、人馴れぬ女だち物恥をしよう、いや、此の男の俤では、物怖、物驚をしようも知れぬ。此の路を後へ取つて返して、今蛇に逢つたといふ、其二階家の角を曲ると、左の方に背の高い麦畠が、なぞへに低くなつて、一面に颯と拡がる、浅緑に美しい白波が薄りと靡く渚のあたり、雲もない空に歴々と眺めらるゝ、西洋館さへ、青異人、異人と呼んで色を鬼のやうに称ふるくらゐ、こんな風の男は髯がなくても(帽子被り)と言ふと聞く。

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