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 『歌行燈』 従吾所好

 と湊屋の女中、前垂の膝を堅くして――傍に柔かな髪の房りした島田の鬢を重さうに差俯向く……襟足白く冷たさうに、水紅色〈ときいろ〉の羽二重の、無地の長襦袢の肩が辷つて、寒げに背筋の抜けるまで、嫋〈なよ〉やかに、打悄れた、残んの嫁菜花の薄紫、浅葱のやうに目に淡い、藤色縮緬の二枚着で、姿の寂しい、二十ばかりの若い芸者を流盻〈しりめ〉に掛けつゝ、
「此のお座敷は貰うて上げるから、なあ和女〈あんた〉、最うちやつと内へお去にや。……島家の、あの三重さんやな、和女、お三重さん、お帰り!」
 と屹と言ふ。

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