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 『歌行燈』 従吾所好

「此のお座敷は貰うて上げるから、なあ和女〈あんた〉、最うちやつと内へお去にや。……島家の、あの三重さんやな、和女、お三重さん、お帰り!」
 と屹と言ふ。
「お前さんがおいでやで、ようお客さんの御機嫌を取つてくれるであらうと、小女ばかり附けて置いて、私が勝手へ立違うて居る中や、……勿体ない、お客たちの、お年寄なが気に入らぬか、近頃山田から来た言うて、此方の私の許〈とこ〉を見くびつたか、酌をせい、と仰有つても、浮々とした顔はせず……三味線聞かうとおつしやれば、鼻の頭で笑うたげな。傍に居た喜野が見兼て、私の袖を引きに来た。

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