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 『春昼』 泉鏡花を読む

 頭を洗ふし、久しぶりで、些心持も爽になつて、ふらりと出ると、田舎には荒物屋が多いでございます、紙、煙草、蚊遣香、勝手道具、何んでも屋と言つた店で。床店の筋向うが、矢張其の荒物店であります処、戸外へは水を打つて、軒の提灯には未だ火を点さぬ、溝石から往来へ縁台を跨がせて、差向ひに将棊を行つて居ます。
端の歩が附木、お定りの奴で。
 用なしの身体ゆゑ、客人が其処へ寄つて、路傍に立つて、両方とも矢鱈に飛車角の取替へこ、ころり/\差違へる毎に、ほい、ほい、と言ふ勇ましい掛声で。おまけに一人の親仁なぞは、媽々衆が行水の間、引渡されたものと見えて、小児を一人胡坐の上へ抱いて、雁首を俯向けに銜へ煙管。

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