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 『義血侠血』 青空文庫

 白糸は諸方に負債ある旨を打ち明けて、その三分の二を前借し、不義理なる借金を払いて、手もとに百余円を剰《あま》してけり。これをもってせば欣弥母子《おやこ》が半年の扶持に足るべしとて、渠は顰みたりし愁眉を開けり。
 されども欣弥は実際半年間の仕送りを要せざるなり。
 渠の希望《のぞみ》はすでに手の達《とど》くばかりに近づきて、わずかにここ二、三箇月を支うるを得ば足れり。無頓着なる白糸はただその健康を尋ぬるのみに安んじて、あえてその成業の期を問わず、欣弥もまたあながちこれを告げんとは為さざりき。その約に負《そむ》かざらんことを虞《おそ》るる者と、恩中に恩を顧みざる者とは、おのおのその務むべきところを務むるに専《もっぱら》なりき。

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