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 『親子そば三人客』 従吾所好

「花まきを一つ、」と誂えて、縞の羽織の片手を懐に、右手〈めて〉で焼落しの、最う灰になつた大火鉢をぐい、と引寄せながら、帳場格子を後にして整然〈ちゃん〉と坐つた、角帯に金鎖を見せた客があつた。彼是十二時に近い頃、雨上りの春寒い晩である。
「まきを一、」と媚かしい声で通したが、やがて十能に真なのを堆く、紅の襷がけ、円く白い二の腕あたり惜気もなう、効々しく、土間を蓮葉にカラ/\と突かけ下駄で持つて来て、鉄火箸〈かなひばし〉を柄長に取つて火鉢にざツくり。

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