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 『春昼後刻』 泉鏡花を読む

 と言ひかけて身体ごと、此の巌殿から橿原へ出口の方へ振向いた。身の挙動が仰山で、然も用ありげな素振だつたので、散策子もおなじく其方を。……帰途の渠には恰も前途に当る。
「それ見えるでがさ。の、彼処さ土手の上にござらつしやる。」
 錦の帯を解いた様な、媚めかしい草の上、雨のあとの薄霞、山の裾に靉靆く中に一張の紫大きさ月輪の如く、はた菫の花束に似たるあり。紫羅傘と書いていちはちの花、字の通りだと、それ美人の持物。

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