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 『夜行巡査』 青空文庫

 おりからひとしきり荒ぶ風は冷を極めて、手足も露わなる婦人《おんな》の膚を裂きて寸断せんとせり。渠はぶるぶると身を震わせ、鞠のごとくに竦みつつ、
「たまりません、もし旦那、どうぞ、後生でございます。しぱらくここにお置きあそばしてくださいまし。この寒さにお堀端の吹き曝しへ出ましては、こ、この子がかわいそうでございます。いろいろ災難に逢いまして、にわかの物貰いで勝手は分りませず……」といいかけて婦人は咽びぬ。

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