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 『義血侠血』 青空文庫

 白糸は猿轡を吃《はま》されて、手取り足取り地上に推し伏せられつ。されども渠は絶えず身を悶えて、跋《は》ね覆《か》えさんとしたりしなり。にわかに渠らの力は弛みぬ。虚《すか》さず白糸は起き復《かえ》るところを、はたと〓仆《けたお》されたり。賊はその隙《ひま》に逃げ失《う》せて行くえを知らず。
 惜しみても、惜しみてもなお余りある百金は、ついに還らざるものとなりぬ。糸の胸中は沸くがごとく、焚《も》ゆるがごとく、万感の心《むね》を衝くに任せて、無念已む方なき松の下蔭に立ち尽くして、夜の更くるをも知らざりき。

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