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 『義血侠血』 青空文庫

 渠は胸中の劇熱を消さんがために、この万斛《ばんこく》の水をば飲み尽くさんと覚悟せるなり。渠はすでに前後を忘じて、一心死を急ぎつつ、蹌踉《よろよろ》と汀に寄れば、足下《あしもと》に物ありて晃《きらめ》きぬ。思わず渠の目はこれに住《とど》まりぬ。出刃庖丁なり! 
 これ悪漢が持てりし兇器なるが、渠らは糸を手籠《てご》めにせしとき、かれこれ悶着の間に取り遺《おと》せしを、忘れて捨て行きたるなり。
 白糸はたちまち慄然として寒さを感《おぼ》えたりしが、やがて拾い取りて月に翳しつつ、

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