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 『義血侠血』 青空文庫

 白糸はたちまち慄然として寒さを感《おぼ》えたりしが、やがて拾い取りて月に翳しつつ、
「これを証拠に訴えれば手掛かりがあるだろう。そのうちにはまたなんとか都合もできよう。……これは今ぬのは。……」
 この証拠物件を獲たるがために、渠はその死を思い遏《とどま》りて、いちはやく警察署に赴かんと、心変わればいまさら忌まわしきこの汀を離れて、渠は推し仆されたりしあたりを過ぎぬ。無念の情は勃然として起これり。繊弱《かよわ》き女子《おんな》の身なりしことの口惜しさ!  男子《おとこ》にてあらましかばなど、言い効《がい》もなき意気地なさを憶い出でて、しばしはその恨めしき地を去るに忍びざりき。

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