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『婦系図』 青空文庫
と肩を揺《ゆす》って、無邪気と云えば無邪気、余り底の無さ過ぎるような笑方。文学士と肩書の名刺と共に、新《あたらし》いだけに美しい若々しい髯を押揉《おしも》んだ。ちと目立つばかり口が大《おおき》いのに、似合わず声の優しい男で。気焔《きえん》を吐くのが愚痴のように聞きなされる事がある。もっとも、何をするにも、福、徳とだけ襟を数えれば済む身分。貧乏は知らないと云っても可いから、愚痴になるわけはないが、自分の親を、その年紀《とし》で、友達の前で、呼ぶに母様をもってするのでも大略《あらかた》解る。酒に酔わずにアルコオルに中毒《あた》るような人物で。
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