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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 今もおなじような風情である。――薄《うっす》りと廂を包む小家の、紫の煙の中も繞《めぐ》れば、低く裏山の根にかかった、一刷《ひとはけ》灰色の靄の間も通る。青田の高低《たかひく》、麓の凸凹《でいり》に従うて、柔かにのんどりした、この一巻の布は、朝霞には地の手拭、夕焼には茜の襟、襷になり帯になり、果は薄の裳《もすそ》に成って、今もある通り、村はずれの谷戸口《やとぐち》を、明神の下あたりから次第に子産石の浜に消えて、何処へ潅《そそ》ぐということもない。口につけると塩気があるから、海潮がさすのであろう。その川裾のたよりなく草に隠れるにつけて、明神の手水洗《みたらし》にかけた献燈の発句には、これを霞川、と書いてあるが、俗に呼んで湯川という。

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