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 『義血侠血』 青空文庫

 ここに思い到りて、白糸はいまだかつて念頭に浮かばざりし盗《とう》というなる金策の手段あるを心着きぬ。ついで懐なる兇器に心着きぬ。これ某らがこの手段に用いたりし記念《かたみ》なり。白糸は懐に手を差し入れつつ、頭を傾けたり。
 良心は疾呼《しっこ》して渠を責めぬ。悪意は踴躍して渠を励ませり。渠は疾呼の譴責《けんせき》に遭《あ》いては慚悔《ざんかい》し、また踴躍の教峻を受けては然諾せり。良心と悪意とは糸の恃《たの》むべからざるを知りて、ついに迭《たが》いに闘いたりき。

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