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 『義血侠血』 青空文庫

「道ならないことだ。そんな真似をした日には、二度と再び世の中に顔向けができない。ああ、恐ろしいことだ、……けれども才覚ができなければ、死ぬよりほかはない。この世に生きていないつもりなら、羞汚《はじ》も顔向けもありはしない。大それたことだけれども、金は盗ろう。盗ってそうして死のう死のう!」
 かく思い定めたれども、渠の良心はけっしてこれを可《ゆる》さざりき。渠の心は激動して、渠の身は波に盪《ゆら》るる小舟《おぶね》のごとく、安んじかねて行きつ、還《もど》りつ、塀ぎわに低徊せり。ややありて渠は鉢前近く忍び寄りぬ。されどもあえて曲事《くせごと》を行なわんとはせざりしなり。渠は再び沈吟せり。

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