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 『高野聖』 泉鏡花を読む

 其の手と手を取交すには及ばずとも、傍につき添つて、朝夕の話対手、蕈の汁で御膳を食べたり、私が榾を焚いて、婦人が鍋をかけて、私が木の実を拾つて、婦人が皮を剥いて、それから障子の内と外で、話をしたり、笑つたり、それから谷川で二人して、其時の婦人が裸体になつて私が背中へ呼吸が通つて、微妙な薫の花びらに暖に包まれたら、其まゝ命が失せても可い!
 瀧のを見るにつけても耐へ難いのは其事であつた、いや、冷汗が流れますて。
 其上、もう気がたるみ、筋が弛んで、早や歩行くのに飽きが来て、喜ばねばならぬ人家が近づいたのも、高がよくされて口の臭い婆さんに渋茶を振舞はれるのが関の山と、里へ入るのも厭になつたから、石の上へ膝を懸けた、丁度目の下にある瀧ぢやつた、これがさ、後に聞くと女夫瀧と言ふさうで。

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