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 『高野聖』 泉鏡花を読む

 縁側へ遣つて来て、お嬢様面白いことをしてお目に懸けませう、不躾でござりますが、私の此の手を握つて下さりますと、彼の蜂の中へ突込んで、蜂を掴んで見せませう。お手が障つた所だけは螫しましても痛みませぬ、竹箒で引払いては八方へ散らばつて体中に集られては夫は凌げませぬ即死でございますがと、微笑んで控える手で無理に握つて貰ひ、つか/\と行くと、凄じい虫の唸、軈て取つて返した左の手に熊蜂が七ツ八ツ、羽ばたきをするのがある、脚を振ふのがある、中には掴んだ指の股へ這出して居るのがあつた。
 さあ那の神様の手が障れば鉄砲玉でも通るまいと、蜘蛛の巣のやうに評判が八方へ。
 其の頃からいつとなく感得したものと見えて、仔細あつて、那の白痴に見を任せて山に篭つてからは神変不思議、年を経るに従うて神通自在ぢや、はじめは体を押しつけたのが、足ばかりとなり、手さきとなり、果は間を隔てて居ても、道を迷うた旅人は嬢様が思ふまゝはツといふ呼吸で変ずるわ。

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