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『春昼後刻』
泉鏡花を読む
前を通らうとして、我にもあらず立淀んだ。散策子は、下衆儕と賭物して、鬼が出る宇治橋の夕暮を、唯一騎、東へ打たする思がした。
恁く近づいた跫音は、件の紫の傘を小楯に、土手へかけて、悠然と朧に投げた、艶にして凄い緋の袴に、小波寄する微な響さへ与へなかつたにもかゝはらず、此方は一ツ胴震ひをして、立直つて、我知らず肩を聳やかすと、杖をぐいと振つて、九字を切りかけて、束々と通つた。
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