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『春昼』
泉鏡花を読む
赤棟蛇が、菜種の中を輝いて通つたのである。
悚然として、向直ると、突当りが、樹の枝から梢の葉へ搦んだやうな石段で、上に、茅ぶきの堂の屋根が、目近な一朶の雲かと見える。棟に咲いた紫羅傘の花の紫も手に取るばかり、峰のみどりの黒髪にさしかざされた装の、其が久能谷の観音堂。
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